« 2023年1月 | トップページ | 2023年3月 »

2023年2月

「生物多様性の危機と私達」2023.2.6

「生物多様性の危機と私達」

室山哲也(日本科学技術ジャーナリスト会議JASTJ会長)

 

昨年12月、国連の「生物多様性条約締約国会議」(COP15)がカナダで開かれ、生物多様性を回復するための、2030年までの国際目標が採択された。この会議は、地球上の生物種を保全し、生態系をどう守るかを議論する重要なもので、今回が15回目となる。「COP」というと、気候変動のCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)を連想するが、それとは別の国際会議。しかし両者には深い因縁がある。というのも、1992年にブラジルで行われた地球サミットで、「気候変動」と「生物多様性」の条約が同時に生まれたからだ。そのため、この二つは「双子の条約」と呼ばれている。

なぜ生物多様性が重要なのだろうか?

それは、生物多様性と私達の暮らしが深く結びついているからだ。農作物を収穫するにしても、漁業を営むにしても、大地や海の存在なしには成り立たない。森林は、二酸化炭素を吸収して酸素を提供してくれるし、豊富な木材などの資源を提供してくれる。森林を上手に育てれば、雇用も生まれ、森が水を蓄えて水害防止にも役立つ。また森などに住む生物は、医薬品の原料になることが多く、抗がん剤の4割以上が自然由来の成分を利用しているという指摘もある。

その生物多様性が、今、危機を迎えている。原因は人間活動だ。

実は40億年の地球史で、生物種の大絶滅といわれる現象が、かつて5回あった。最近のものは、6600万年前の、隕石衝突による恐竜の大絶滅だが、それ以前も巨大火山噴火など、さらに深刻な出来事があったことがわかっている。それらの原因は自然現象で、絶滅も1000年に平均1種の速度だった。しかし、今、人間活動によって、6回目の大絶滅が起きており、1年に平均4万種の速度で絶滅が進んでいると言われる。絶滅危惧種のリストを見ると、イリオモテヤマネコをはじめ、ホッキョクグマ、ゴリラ、チンパンジー、アザラシ、レッサーパンダと、おなじみの動物があげられている。海ではサンゴ礁が激減している。サンゴ礁は海洋の1%以下の面積なのに、海洋生物の1/4が生息する生物多様性の重要な場で、その影響は大きい。

お金の話で恐縮だが、「世界のGDPの半分以上の44兆ドルが自然に依存しており、生物多様性の喪失は世界経済の重大リスクだ」という報告もある(世界経済フォーラム2020)。このように、生物多様性の損失は、さまざまな側面で私達人類にダメージを与える。

SDGsのウエディングケーキモデルをみると、自然環境の上に、経済や政治、文化が成立している。「命あっての物種」というが、私達人類は、生物多様性を破壊しながら繁栄するのは、おそらく難しい。

ではどうすればいいのだろうか?

残念ながら、生物多様性をめぐる保全は十分には機能していない。今回のCOP15でも、「陸域、海域、内水域(河川や湖沼など)を、2030年までに少なくとも30%保全」「プラスチック汚染を減らし、過剰な肥料と農薬のリスクを30年までに半減」「自然に根差した方法で気候変動を最小化」などが決まったが、今後の実効性については課題が多い。

生物多様性の問題は、一見地味で、わかりにくいが、一歩一歩着実に進める必要がある。

かつて日本には「里山」と呼ばれる地域が広がっていた。人間が自然環境に手を加えるとき、欧米では、介入が強すぎて、生物種が減少するが、里山ではなぜか、生物種が増えているという。自然環境を根絶やしにせず、共存する態度を保ち、獲物の一部を小動物のために置いて帰るなど、「自然と共存する」文化があるからなのかもしれない。

私達日本人は、このような文化を大切にしながら、自然と人間が共存できる、社会の姿をもう一度再考する必要があるように思う。

(日刊自動車新聞2023/2/6掲載)

 

| | コメント (0)

« 2023年1月 | トップページ | 2023年3月 »