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「ロボコンで心の灯をともせ」2022.12.5

冬が来るとロボコンの歓声が聞こえてくる。

私はNHK時代、ロボコン(アイデア対決ロボットコンテスト)の担当プロデユーサーをしていたことがある。ロボコンからは多くのことを学んだ。

あまり知られていないが、NHKロボコンの源流は、アメリカのマサチューセッツ工科大学と東京工業大学の授業だ。ロボット工学の教授が、学生の心に火をつけようと、「限られた材料」でロボットを手作りさせ、性能とアイデアを競う競技大会を始めたところ、これが大当たり!たちまち名物授業となった。なにせ、ロボコンには、正解がない。何をやっても許される。そして自分が作ったマシンが、競技場で動き活躍するのだ。その自由な精神と、創造の喜びが、学生たちの心に火をつけたのだろうと思う。NHKはその様子を番組で紹介し、それがきっかけで、1988年に高専ロボコンが誕生した。そして今やロボコンは、大学生、中学生、小学生にまで広がり、私が設立に関与したABUロボコン(アジア太平洋放送局連合)など、日本が世界に誇る、グローバルイベントに発展した。

タイの前国王も、アジアのリーダーたちも、ロボコンファンが多く、アジアの多くの若者の支持を得て、ロボコンは急速に広がっていった

なぜロボコンは、こんなに若者たちを夢中にさせるのだろうか?その秘密を、「ロボコンの祖」と言われる、森政弘東京工業大学名誉教授に聞いた。

ロボコンには数々の名言がある。

まず「ロボコンに正解なし」という言葉が重要だ。

ロボコンは、材料や競技大会のルールさえ守れば、どんなマシンを作ろうが、形や動きは自由だ。「これが正解」といった、定型的な正解はなく、まさにアイデアこそ、勝負のキーとなる。荒唐無稽、捧腹絶倒、空前絶後のロボットこそ、ロボコン精神が最も大切にするものだからだ。いまや、人工知能が出現し、決められた作業が消滅し、人間の仕事が、非定型的な創造性に富むものになっていかざるを得ない現代においては、ロボコンの自由闊達な精神が重要なカギとなってくる。

そして、「モノが人を育てる」という言葉がある。

たとえば考え抜かれたマシンの設計図があるとする。しかし作ってみると、マシンはなぜか動かない。町工場のベテラン職人に聞くと、「遊び」が足りないからだという。設計者は、反発するが、やってみると、確かにマシンは動いた。設計図は、ものつくりの羅針盤だが、その後「モノとの格闘」のプロセスが始まる。いくら設計図で指示されても、例えば、鉄を曲げようにも、鉄という素材は、そのようには曲がらない場合がある。現実は理屈通りにはいかない。「モノ」が反逆しているのだ。学生たちは、ロボコンを通じて、自分が思い描いたイメージを実現するためには、モノと対話し、格闘し、そして命を吹き込んでいかなければならないことを知る。そしていつの間にか、モノに対する敬意を学んでいく。

「ものつくり教育」の本質は、人間の想像力と、現実のはざまで生み出される美しい関係性にあるのかもしれない。

最後に、「勝ったマシンにゃ力がある、負けたマシンにゃ夢がある」という言葉。これは負けが多いチームの先輩が、後輩に残した言葉だ。しかしなかなか含蓄がある言葉だ。ロボコンは、ただ勝てばいいというものではない。つまらない形の、ただ強いだけのマシンは、あまり面白くない。たとえ弱くても、作り上げようとした夢の大きさ、しなやかさ、独創性こそロボコン精神の柱だという発想だ。実は、ロボコンには「アイデア倒れ賞」が設定され、そのような学生をたたえるシステムが用意されている。

私は、ロボコンを見ていると、子供のころ竹とんぼを作って、野原で飛ばした、あの気持ちを思い出す。自分の頭で考えて、自分の手で作り、それを使って遊ぶという単純な行為が、いかに感動的かを、今となって、しみじみと感じる。

今の教育には、そのようなわくわくした、のびやかな要素が、どれほど貫かれているだろうか?

テクノロジーが進化し、人間らしさとは何かが、より問われる現代において、「モノを創造する」行為の重要性が、もっと尊重されてもいいと思う。

室山哲也(日本科学技術ジャーナリスト会議JASTJ会長)

(日刊自動車新聞2022/12/5掲載)

 

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