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2022年11月

「サイボーグ技術の可能性とは」2022.11.7

「サイボーグ技術の可能性とは」

室山哲也(日本科学技術ジャーナリスト会議JASTJ会長)

 

人間が念じるだけで、マシンやロボットが動いたりする、夢のような技術がある。

BMI(ブレインマシンインターフェイス)というこの技術は、脳が働くときの、脳波や脳の血流変化などの信号を、外からキャッチして、コンピューターと接続し、機械やロボットを自由に動かそうというもの。一般的には、サイボーグ技術といってもいいかもしれない。

私は、かつて、京都の研究所で、家庭内の電気製品が、念じるだけで動く様子をロケしたことがある。エアコンのスイッチを付けたり、テレビのチャンネルを変えたり、カーテンを開け閉めしたり、水道の水を出したり止めたりする様子を見て驚いた。また、fMRIという装置に人が入り、手を握ったり開けたりするときの、脳の血流変化の信号で、離れたところのロボットの手を動かす実験も撮影した。当時、アメリカでは、体がマヒした患者の脳に電極を入れ、念じるだけで、コンピューターを操作したり、外部のロボットを動かすことに、すでに成功していたころだ。

NHKでは、17年前、「立花隆最前線報告:サイボーグ技術が人類を変える」という番組を放送し、大反響を呼んだが、その後、BMI技術は目覚ましく進歩し、いくつものベンチャー企業によって、医療や教育、ゲームなどのエンターティンメントに、大きく広がり始めている。特に注目すべき人物として、イーロンマスク氏がいるが、電気自動車や宇宙開発事業のほか、BMIにも強い興味を示し、AIと脳を接続して、人類の能力(脳力)を増強させるなどの発言で、世界を驚かせた。

BMIは脳の仕組みを利用した技術だ。

脳は、様々な部位に分かれている。判断を司る前頭前野、体を動かす運動野、手で触った感覚等を感じとる体性感覚野、目で見た世界を感じ取る視覚野、耳からの情報を感じる聴覚野などいくつもの領野に分かれている。

BMIは、これらの領野とコンピューターを接続し、様々な結果を生み出す。

運動野からの信号をマシンに接続すれば、マシンが動き、カメラで撮影した情報を視覚野に入力すれば、視覚が回復し、マイクで集めた音の信号を聴覚野に入力すれば、聴覚がよみがえることになる。実際、人工内耳を使って、失われた聴覚を取り戻し、バイオリンを演奏できるまでになった人まで存在している。

さらに、医療への応用も進んでいる。たとえば、脳卒中で運動不全になった患者の、運動野の一部を電気刺激し、回復させることに成功した例もある。

もしかしたら、いつか、脳と脳を直接つないでテレパシーによるコミュニケーションが可能になる日が来るかもしれない。

BMIは夢の技術だ。しかし一方で、人為的に脳を操作するなど、倫理上の問題もはらんでいる。今後は、「BMIの悪用禁止」「本人の合意」「医学的影響の研究」など、いくつもの課題の検討も必要になってくると思われる。

(日刊自動車新聞2022.11.7掲載)

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