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おもしろ人間学①「人間とは何か?」2019.11.8

おもしろ人間学①「人間とは何か?」(室山哲也)

 

  • なぜ今「人間」なのか?

「我々はどこから来たのか?我々は何者か?我々はどこに行くのか?」(ポール・ゴーギャン)

人間とは何か?というこの問いは、おそらく人類が生まれたころからあったのではないでしょうか。ネアンデルタールの洞窟で発見された人骨のそばには、大量の花粉が見つかり、当時の人間がすでに「死」を意識し、死者を弔った跡ではないかといわれています。「生きることと死ぬこと」にネアンデルタールという人類の仲間が、すでに目を向け、認識し、その事実に向き合っていた姿が見えてきそうなエピソードだと思います。

最近、本屋に行くと「人間とは何か?」といったテーマの本がずらりと並び、中にはベストセラーになる本もあるそうです。このブームの背景には、社会が不安定化し、災害や事件が相次ぎ、格差社会が広がっていく中で、「人間とは何か?」「人間の幸せとは?」といった根本的な問題に、人々の目が向き始めているからではないでしょうか?

 

ある研究者の話では、20世紀以降、科学や技術が急速に進んだせいで「人間の定義」がしだいに揺れ始めているといいます。かつて人間という存在は、生き物や物を超えた崇高で特別なものだと信じられてきました。しかし科学研究が進む中、その確信が、だんだん怪しくなってきているのです。まず、生物学や「霊長類研究」が進み、人間にしかないと思われていた行動や心理が、意外に生物界に広くみられるということ。もう一つはIT技術の進化で、人間の脳にしかできないとされていることが、コンピュータで代替できるようになったこと。この二つの科学や技術の進化で「これこそが人間の特徴」といえるものが、次第にぼんやりとし始め、リンゴの芯のようにやせ細ってきたというのです。

けれども私たち人間は、それでも、今もどこかで「自らの優位性」を信じ、人間存在にプライドを持っていることもまた事実。そういう訳で「人間とは何か?」をもう一度根本的に考え、自らを再確認したくなっているのではないでしょうか?

 

  • ヒトはこうして生まれた

人類はいつ誕生したのでしょうか?現在の科学的な説明はこうです。地球が誕生したのが今から46億年前。これを1月1日とし、カレンダーのように生命史の出来事を並べていくと・・生命誕生(1月下旬)、真核生物誕生(7月7日)、植物誕生(11月25日)、爬虫類誕生(12月5日)、哺乳類誕生(12月14日)、ホモサピエンス誕生(12月31日23時37分)となります。私たち人類が誕生したのは、日本でいうとNHKの紅白歌合戦が終わろうとしている大晦日ぎりぎりありで、地球史から見ると、人類は、まったくの新参者だということがわかります。人間の文明の始まりともいえる「農耕」が始まったのが1万年前、産業革命が200年前だということを考えると、私たち人類は突然地球上に現れ、環境を瞬く間に作り替え、破壊し、地球温暖化や環境汚染を引き起こす、ケシカラン生き物だということがわかります。現在地球上には3000万種ほどの種が生きていますが、そのなかの、たった1種の人類が行っている乱暴狼藉は「人間という生き物」とはいったいどういうものなのか、考えざるをえない事実とも言えます。

 

  • 脳はこうして巨大化した

人間の最大の特徴は、他の動物に比べて脳が発達している点です。脳を使って世界を知り、考え、言葉を使ってコミュニケーションし、ものを創造してきました。人間は脳を使って文明を作り、豊かさを手に入れてきたのです。

しかしこの素晴らしい能力を持つ「脳」は、ある偶然で進化したという仮説があります。

今から700万年以上も前、アフリカの東部、今のエチオピア、ケニア、タンザニアあたりで激しい火山活動や地殻変動が起き、土地が隆起し、場所によっては4000メートル級の山脈が誕生しました。今までその一帯では人とサルの祖先が、森林の中で樹上生活をしていたのですが、山脈ができたため、大西洋から吹いてくる湿った風が、東側に吹き込まなくなり、山脈の東側の土地が乾燥して、森が消滅し、草原になっていったというのです。

山脈の東側にいた人類の祖先は、そのため、木にぶら下がって移動したり、生活できなくなり、結果、草原を移動するとき、二足歩行を始めたというわけです。二足歩行すると、両手が自由になるため、手でものをつかんだり、つまんだりしながら、脳も発達しはじめました。二足歩行すると、垂直方向の力に強いため、重い脳を支えることができ、人類進化が加速したというストーリーです。この説が正しいとすると、私たち人類の最大の特徴の脳の進化は、自然の変化や気候変動で、たまたま起きたということになります。崇高な意思で何者かが人間を作ったのではなく、偶然の結果だという物語は、逆に何かおかしく、人類に対して、いとおしい感情がわいてくるような気もします。

 

  • 不思議の臓器「脳」

さて、いずれにしても私たちの脳は巨大化し、複雑な機能を持ってきたわけですが、脳についてはわからないことや謎だらけです。そもそも「心」がどこにあるのか、どのように生まれるのかも、きちんとわかっていません。大多数の脳生理学者は、心は脳の中にあるといいますが、心の座が心臓にあるとか、体全体にあるとか、人と人との間に生まれるとか諸説紛々。たとえ脳の中にあっても、脳のどこにあるのかがわからず、あいまいな返事しか返ってきません。ということで本日は「わかっていること」の一部をご紹介したいと思います。

 

  • 脳には3匹の動物が住んでいる

「脳には3匹の動物が住んでいる」という言葉があります。これは昔ある学者が唱えた説ですが、理解するのによくできた説なのでご紹介しましょう。まず一番深いところに「ワニの脳」があり、その上に「ウマの脳」、その上に「ヒトの脳」が三層構造のように乗っかっているという考え方です。「ワニの脳」は呼吸や血圧など「生きるため」の中枢。「ウマの脳」は喜怒哀楽。「ヒトの脳」は記憶したり考えたりする知性の中枢でそれぞれが連動して脳は働きます。人間は進化のプロセスで脳を巨大化させてきましたが、新しい脳を上に上に建て増しする形で進化させてきました脳の神経細胞の多くは表面の「ヒトの脳」(新皮質)にありますが、これを広げると新聞紙の大きさにまでなります。脳は巨大化につれて、行き場を失い、表面積を大きくするため、脳全体が折りたたまれて、表面にしわがいっぱいできたと説明されています。

さて、コンピュータと人の脳を比較した時、この3層構造こそ、人間の脳の特徴といえます。ヒトの脳は、もちろん知性を持ってはいますが、基本的に脳は、生きるためにつくられたものです。知性以外の喜怒哀楽も、せんじ詰めれば生き延びるために生まれたもので、人間がものを考えるとき、「ワニ」「ウマ」「ヒト」の脳が同時に活動して知的活動を成立させているのです。人間同士がコミュニケーションするときも、この3匹の動物が丸ごと働いて情報交換していることを忘れないようにしなければ、人間の脳の活動やコミュニケーションの、本当の意味はわかりません。人間の脳は知性と感情が分かちがたく絡み合った、複雑な働きをしているのです。

 

  • わかった時は脳が喜ぶ

「アハ体験」という言葉があります。何かを考え続け、ついにわかった時に「わかったぞ!なるほど!」と感じる瞬間の現象です。例えば私たちが、いくつかの断片的な情報の写真を見たとき「これは何だろう?見たことあるような・・」という悶々とした気持ちになりますが、正解の写真を見せた時、「なるほどこれか!」とわかります。じつは「これは何だろう?」と考えるとき、脳の中では、自分の記憶を探り、つなぎ合わせて、見ているのものがどれに当たるかを激しく検索しています。これは結構つらい作業なのですが、正解がわかったとき「なるほど!」と脳内で快感物質が出てきて、とてもうれしい感情がわいてきます。いわば「脳が喜んでいる」わけです。この現象は人間の知的好奇心と深くつながっていると考えられ、わかった時の快感を求めて行為を繰り返すと、脳内の回路の道筋ができ、回路が増強していくと考えられています。これがいわゆる「学習」です。いずれにしても、人間の脳は、この仕組みを通じてパワーを爆発させ、、知的好奇心を最大限使い込んで新しい文明を作ってきたのではないでしょうか。

 

  • 脳が世界を作る

「脳が世界を作る」という言葉もあります。例えばマッチ棒がばらばらと放り出されている図を見ていると、人間の顔が見えてくるというようなことはないでしょうか?人間の脳は、このように断片的な情報をつないで、あるイメージを作り出す傾向があります。たとえば森を歩いているとき、木々に茂っているはっぱを見ていると人間の顔が見えてきたり、幽霊を見たというエピソードを聞きますが、それも同じ現象です。またある図を見ると、真ん中に白い三角形が見ます。しかしよく見ると、折れ曲がった黒い線と、パックマンみたいな黒の半円は描かれていますが、真ん中の白い三角形は描かれてはいません。私たちの脳は、この黒い図をつないで、真ん中にありもしない白い三角形を作り出すのです。これは人間の脳の特徴で、この能力があるため、私たちは断片的な情報をつないで、その背後にある規則性やルールを発見し、世界を体系的に把握することができます。これは「想像力」であり「創造力」でもあり、私たちはこの力を使って、文明を作り上げてきたといえます。しかし、すでにお気づきのように、この能力は、別の角度から見ると「錯覚」につながるもので、使い方によっては大きな害をもたらす側面もあります。このように脳には非常に優れた側面と、大きな落とし穴が共存しているのです。例えば、よく切れる刀は「人を救うメス」にもなり、「人を殺めるドス」にもなります。それと同じように、脳は、幸福を創造する側面と、不信感や破滅につながるものにもなりうるのです。「脳」のパワーをどう使うのか?それは私たちの意識そのものにかかっているといえるのです。

 

  • 視点を変えると違うものが見える

ある一点に注目すると、別のことに意識が及ばない現象があります。例えばこの女性の顔の絵を見ると、若い女性に見えたり、お年寄りの女性に見えたりします。一つの顔が見えているときはもう一つの顔は見えませんが、両方見えたのちは、この絵が2つの顔が書かれていることを学習し、脳がその絵の特徴を理解します。この「視点を変えると違うものが見える」現象は、地図を例にとるとよくわかります。日本人がよく使う世界地図は、太平洋が中心のものですが、欧米では大西洋中心の世界地図がポピュラーです。この地図では、日本は東の果ての島国だということがよくわかります。またオーストラリアで売られている世界地図では、上下が逆になっており、今まで意識したことがない世界が広がっています。この地図を見ると、日本がカムチャッカ半島から沖縄方面に連なる列島の一部であることがよくわかります。また日本海は大陸から文化が伝来した「表玄関」だということもわかります。さらに、北極海上空から見た世界地図を見ると、北極海がカナダ、アラスカ、ロシア、ヨーロッパ、いわゆる文明国が取り巻いた「内海」だということが見て取れます。最近、地球温暖化で北極海の氷が消失しつつありますが、もしも氷が消えたら、北極海は、地の果てどころか、世界の中心に位置する「一大経済圏」となる可能があることが理解できます。このように「視点を変えると違う世界が見えてくる」「脳内に違う精神世界ができる」のです。22世紀は異文化接触、異文化衝突の時代です。「視点が変わると違うものが見える」という事実を、私たちがよく理解し、本当の国際人になっていかなければならないと思います。

 

  • まとめ

私が親しくしているある動物園の園長さんが「ヒトばかり見ているとヒトがわからなくなる」と口癖のように言っていました。外国に行くと日本のことがよくわかるように、違う視点に立つと物事の本質が見えてきます。しかし考えてみると、これができるのは人間の脳があるからです。私たちには「イマジネーション」という強い武器があり、それを駆使して物事を多面的にとらえることができるからです。人間の脳についてはまだまだ分からないことだらけですが、一つ一つ人間の脳と心の本質がわかり、それが私たちの生活をより豊かにしてくれることを、これからも切に望みたいと思います。

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