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時論公論「衛星打ち上げビジネスの課題」2012.5.18

●リード

今日未明、国産ロケットH2A21号機が打ち上げられ、成功しました。連続15回目の成功で、成功率では、世界のロケットと肩を並べるまでになりました。今回の特徴は、日本が初めて、外国から打ち上げを受注した、衛星を乗せたことです。その意味で、日本の宇宙開発の新しいページが開いた日といえます。今夜は、日本の衛星打ち上げビジネスの現状と今後の課題について、考えてみたいと思います。

●H2Aロケット21号機とは

H2A21号機は、全長57m。合計4トンの衛星を、高度36000キロの静止軌道に打ち上げる能力があります。今回は、大型の水観測衛星「しずく」、小型衛星2機のほかに、地上の地形や建物の様子を観測する、韓国の多目的実用衛星が搭載されました。打ち上げられた衛星は、それぞれすでに、所定の軌道に入っています。H2Aは、2001年、宇宙航空研究開発機構JAXAによって最初の打ち上げが行われ、13回目の2007年から、三菱重工が中心となった民間企業が、ロケットの製造と打ち上げを行っています。

●なぜロケットビジネスか

日本は、なぜ民営化をめざすのでしょうか?ロケットは、巨大で複雑なシステムで、技術開発や産業への大きな波及効果があります。H2Aの技術を民間企業が引き継げば、習得した巨大技術のノウハウを、プラントや高速鉄道など、ほかの技術に応用して、産業活性化につなげることができます。国の側から見ると、予算不足の中、民営化で作りだしたお金と人材を、より先進的で多彩な宇宙開発、例えば、日々の天気をより詳しく伝える新型気象衛星や、災害時に役立つ地球観測衛星などの開発に投入することが出来ます。また、民間企業と協力して、国産ロケットを維持すれば、日本が必要な衛星を、必要な時に打ち上げることが出来るため、国民生活に密着した宇宙開発を展開できます。

宇宙開発の民営化は、世界的にも進んでおり、とくに欧州、少し形は違いますがロシア、最近ではアメリカも、民間宇宙ビジネスを強力に推進しています。

しかし、実際には、衛星打ち上げビジネスは苦難の道です。民営化を維持するには、最低、年間4機の衛星を打ち上げ、利益を得る必要があります。日本の政府が作る衛星は、年間1-3機。その衛星は受注できるとしても、残りは外国から受注しなければなりません。

通信衛星や放送衛星など、衛星打ち上げビジネスの対象となる商業衛星の、世界の打ち上げ需要は、毎年およそ20機前後。それを欧州が半分、次にロシア、続いて中国とアメリカが分け合っています。最近では、中国が急速に力をつけており、日本が割り込むのは容易ではありません。

●今後の課題

今後、日本が、衛星打ち上げビジネスを成立させるには、どんな課題があるのでしょうか?

(1)      ロケットの安全性

まず第1に、いつでも確実に打ち上げられる、安定したロケットが必要です。

H2Aと世界の主要ロケットを比較すると、日本の成功率は95%以上と、遜色ありません。しかし、そのロケットが属しているシリーズ全体の打ち上げ総数を見ると、日本は一桁少なく、圧倒的に経験不足です。「ロケットは連続20機打ち上げて一人前」という言葉がありますが、H2Aはやっと大人の仲間入りをしたばかりです。今後、定期的に、数多く打ち上げることで、技術を成熟させていく必要があります。

(2)      コスト

2つ目の課題は、コストの問題です。

ロケット1機当たりの製造、打ち上げコストは、世界の平均が70億円のところ、日本は、およそ90億円と2-3割割高です。また、欧米のロケットは、静止衛星を赤道上空に打ち上げるとき、目的地点までの飛行距離を短くするために、赤道近くに基地を作っていますが、日本の種子島宇宙センターは、赤道から離れているため、打ち上げ後、衛星は、自らの力で赤道上空にまで移動しなければならず、余分な燃料を使ってしまいます。ロケットの経費を少しでもコストダウンするため、三菱重工は、4種類あったH2Aのタイプを、2種類に減らしました。さらに、エンジンをシンプルにし、リハーサルの回数を減らすなどしてきましたが、近年の円高の影響もあり、苦戦が続いています。

今回、韓国の衛星を受注できたことは、確かに快挙ですが、実際は、韓国の衛星とJAXAの衛星の軌道が偶然ほとんど一緒だったため、相乗りしてコストを下げることができた背景があります。この幸運が、今後も続く保証はありません。また、日本のメーカーが、近年、シンガポールやトルコなどから、相次いで2機の通信衛星の製作を受注しましたが、残念ながら、ロケットの打ち上げは、外国に奪われてしまいました。このように、コストの問題は、H2Aにとって最大の課題といえます。

3)ニーズに合ったロケット作り

3つ目の課題は、世界の衛星のニーズに合ったロケットを作る必要があるということです。

世界の通信衛星や放送衛星は、年々、扱う情報量が増え、大型化する傾向にあります。H2Aが対応できる衛星の大きさは4トンですが、近年、それ以上の大きさの衛星が増えてきました。その結果、関係者によると、H2Aが対応できる衛星は、商業衛星全体の1-2割にまで減っているといいます。この状況を打破する一つの方法は、ロケットの打ち上げ能力を高め、搭載できる衛星の数を増やして、衛星一機当たりの打ち上げ料金を下げることです。たとえば、欧州のアリアン5は、H2Aの2倍以上の搭載能力があり、2つの大型衛星を、同時に静止軌道に投入できるため、その分打ち上げ料金を下げることが出来ます。

この状況に対応するために、JAXAは、H2Aの機能を高度化する計画を打ち出しました。衛星を最終的に宇宙に運ぶ、2段目ロケットの性能を高め、より長く飛べるようにし、放出後、衛星が、軌道に入るために使う燃料を、肩代わりしようというのです。

もう一つ計画があります。現在、国際宇宙ステーションへの運搬に使われている、H2Bロケットを、民間移管し、外国の衛星打ち上げにも使おうという計画です。H2Bは、搭載能力が、8トンと大きく、民営化すれば、従来のH2A、改良型H2A、そしてH2Bのラインナップが誕生し、より多くの種類の衛星に対応できる体制ができます。しかしH2Bは、もともと宇宙ステーション用に設計されているため、世界の多様な衛星に対応しにくく、コスト面でも問題があるため、今後民営化するためには十分な検討が必要といえます。

●まとめ

このように、日本の衛星打ち上げビジネスを取り巻く状況は、厳しい状況にあり、これからが正念場といえます。一方、世界の宇宙開発は、今、激しく変化しています。去年夏、アメリカはスペースシャトルを終了させ、国際宇宙ステーションへの民間参入を進め、NASAは月や小惑星、火星など、遠い宇宙を目指すという方針を打ち出しました。欧州やロシア以外にも、中国やインド、そして韓国やブラジルなどの宇宙開発も急速に進んでいます。宇宙開発が、安全保障と産業の両方に結びつきながら、膨大な予算を必要とする現実の中で、民営化の流れは今後も変わりそうもありません。日本は、その流れの中で、日本にとって望ましい宇宙開発の姿を、もう一度探りながら、民営化を進めていく必要があります。今回の打ち上げ成功が、日本の宇宙開発のあるべき姿を、改めて考えるきっかけになるよう、望みたいと思います。

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