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放射能とどう向き合うか?2011.8.14

●「まさか」の連続だった福島第一原発事故
・ 3月11日の東日本大震災で引き起こされた福島第一原発事故は、信じられない出来事の連続でした。水素爆発で立ち上る煙、次々に悪化していく原発内部の状況、溢れる汚染水、そして広範囲にまきちらされていく放射性物質。どの光景も目を疑うものばかりで「まさかこんなことが日本で起きるとは」というのが、私の率直な感想でした。
・ 私は今から25年前、NHKスペシャルの取材で、のべ4回、半年にわたり、チェルノブイリの汚染地帯に入ったことがあります。私は、その頃、実は「原発災害は、ソビエトという社会主義国家だから起きたのだ」と思っていました。日本の原発はタイプが違うし、安全装置も充実している。日本は先進的な資本主義国で、世界に冠たる科学技術大国。その国で原発事故など起きるはずがないと、心のどこかで思っていたのです。チェルノブイリにはいっていた、多くのジャーナリストたちも、私と同じような印象を持っていたのではないでしょうか。
・ ところが、その原発事故が、こともあろうに日本で起きた。しかもチェルノブイリと同じレベル7。放出された放射性物質の量は一ケタ少ないとはいえ、10日で事故が収束したチェルノブイリと比べて、福島の原発事故はいまだ収束しておらず、世界で初めて、複数の原発での事故だということを考えると、チェルノブイリを上回る衝撃を世界に与えた側面があります。技術レベルが高い日本で原発事故が起きたということは、世界中の原発の安全基準の再チェックが必要になります。また原発は、近年、地球温暖化を食い止める、重要なエネルギー源と(いつの間にか)位置づけられ、その意味でも、今後の世界の温暖化政策にも大きな影響を及ぼします。さらに、アジアなどで進行する急速な経済成長を見ると、今後の世界のエネルギー戦略をどうしていけばいいのか、深刻な課題が各国にのしかかることになります。

● 放射能汚染はどこまで広がっているか?
・ 福島では、今も原発の暴走と、放射能の放出を食い止める努力が続いています。原発の現状は、再びメルトダウンに向かうような、一時期の危険な状況は脱したように見えますが、事故はまだ収束しておらず、原発内の燃料を冷却し、今後の廃炉に向けて、やらなければならないことが山積です。そしてこの作業は、今後数十年にわたって続けられるのです。
・ もう一つ深刻な問題があります。それは、既に放出された放射能による深刻な環境汚染です。福島第一原発から放出された放射性物質は、数種類ありますが、当面重要なものは放射性ヨウ素と放射性セシウムです。放射性ヨウ素は、半減期(放射線の量が半分になる)が8日と短く、既に放出されたものは徐々に危険性が少なくなっていきます(原発から新たな放出がないことが前提)が、放射性セシウムは、半減期が30年と長く、環境に降り積もった後、人体に放射線によって、直接影響を与えたり、食物や水を通して影響を及ぼしたりする危険性があります。現在発表されている放射能汚染地図は、そのまま、放射性セシウムの濃淡を示していると考えていいと思います。
・ 福島原発事故で放出された放射能は、その多くが原発周辺から北西の方向に流れ、その後「計画的避難区域」と呼ばれた地域を中心に、環境を汚染しました。また風向きの変化で、その他のところにも飛散しましたが、地形や雨の影響で、所々に「ホットスポット」と呼ばれる濃度の高い場所も出来ました。チェルノブイリ事故でもそうでしたが、放射能による汚染地帯は、決して同心円状ではなく、風向きや地形、気象の影響で、複雑な形になるのが一般的です。事故直後、緊急避難的に、危険な区域を同心円状に設定するのは仕方がないことですが、その後の放射能汚染地図作りの過程で、同心円の外でも人が住めないところがわかったり、逆に、同心円内でも、人が住める地域が出たりすることがあります。

● 放射線の人体への影響はどこまでわかったか?
・ 放射線の人体への影響は、実はまだわからないことだらけです。人間の健康に関わることだけに実験することも出来ず、今まで人類が経験したこと(たとえば広島長崎やチェルノブイリでの経験)の医学データをもとに整理するしかないからです。(P1)これは放射線の強さと人体への影響を表した図です。100ミリシーベルト(緊急作業員の被ばく上限)を超えて、1000ミリシーベルト(1シーベルト)で吐き気、3000-5000ミリシーベルト(3-5シーベルト)で50%死亡、1万ミリシーベルト(10シーベルト)では100%死亡すると言われています。これらの被ばくによる症状は、「急性症状」と呼ばれ、広島や長崎などでも認められたもので、吐き気、倦怠感、出血、脱毛、ガンの増加などの、体の異変が報告されています。では100ミリシーベルト以下では何が起きるのでしょうか?100ミリシーベルト以下では、いわゆる急性症状は出ず、どのような人体への影響があるのかは、まだよくわかっていません。(P2)これは被ばく線量とガンの発生率を表にしたものです。100ミリシーベルト以上では、被ばく量に比例してガンが増加することがわかっています。100ミリシーベルトで0.5%増加、1000ミリシーベルトで5%増加と言った具合です。しかし100ミリシーベルト以下では、それらの事実は確認されていない為、100ミリシーベルト以上の直線をそのまま敷衍して0に繋ぎ、被ばく線量に従ってガンの発生率が変わると仮定した考え方が、一般的に採用されています。この考え方を「直線仮説」といいますが、10ミリシーベルトで0.05%増加、1ミリシーベルトで0.005%増加ということになります。しかしこれはあくまで仮説で、実際どうなのかはわかりません。この「直線仮説」の考え方にたてば、放射線の被ばくは出来るだけ0にするのが望ましいということになりますが、逆に言うと、どこまでやってもリスクは0にはならないわけで、放射線の避難基準や防護基準を巡る混乱の原因になっているとも言えるのです。

● チェルノブイリから何を学ぶか
・ では、チェルノブイリ原発事故では、今まで何がわかっているのでしょうか?大きく言って、二つの事がわかりました。一つは、やはり急性症状が確認されたこと。チェルノブイリでは、事故の収束の為に、おびただしい消防士や軍人が炉心近くで仕事をしましたが、大量の被ばくをした人の中には「急性症状」が現れ、死亡したり、深刻な状況に陥る人が出てきました。これらは、放射線を外部から浴びる「外部被ばく」によるものが大きいと考えられています。もう一つわかったこと。それは、放射能を含む水や食べ物を体に取り込み、放射線を内側から浴びる「内部被ばく」による影響です。チェルノブイリで確認された内部被ばくの影響は、放射性ヨウ素を含む牛乳を大量に飲んだ子供に甲状腺がんが発生したということです。通常子供の甲状腺がんは非常に珍しく、事故後急増した事で、チェルノブイリ事故との関連が確認されたのです。ICRPやIAEAなどの、国際機関によると、チェルノブイリで確認された人体への影響はこの二つだけです。チェルノブイリでも大量の放射性セシウムやプルトニウム、ストロンチウムが放出され、特に放射性セシウムは広範囲に環境を汚染し、大きな社会的問題になりましたが、人体への影響が深刻だとする組織のデータも、今ひとつ説得力を持つに至らず、放射性セシウムが環境から直接、あるいは食品や水を通じてどの程度住民の健康に影響を与えたのかは、医学的には、まだ確立されたものになっていません。

● 放射能にどう向き合うべきか?
・ では、福島第一原発事故で、既に放出された放射能に、私達は今後、どのように向き合って行けばいいのでしょうか?
・ まず原発での作業にあたっている作業員の人々の健康を守る必要があります。通常緊急時の作業員の被ばく限度は100ミリシーベルトとされていますが、福島第一原発事故の作業員の被ばく限度は現在250ミリシーベルトに引き上げられています。しかしそれでも数人の人が既にそれを超えているとの報告もあり、健康が心配です。一部では、東京電力のずさんな管理を指摘する声もあります。放射線による急性症状は明らかにわかっていることであり、なんとしても被ばくによる影響を食い止める必要があります。
・ 二つ目は放射性ヨウ素から子供を守るということです。放射性ヨウ素の半減期は8日で、今後新しい放射性物質の放出がなければ心配はありませんが、問題は過去に放出された放射性ヨウ素が、子供の体にどのくらい取り込まれたのか、甲状腺がんの恐れはないのかということです。政府は事故直後3/28-30に、計画的避難区域などで検査を行い、問題になる被ばく量ではなかったことを確認してはいますが、今後子供の甲状腺の異常や健康調査を継続的に行い、問題がないことを、長期的に確認する必要があります。
・ 3つ目に必要なことは、放射性セシウムで汚染された区域に今も住む人々の健康をどう守るかということです。特に福島市や郡山市に住む子供たちの健康が心配です。政府はそれらの区域の小学校などの放射線量の上限を20ミリシーベルトとし、除染を進め、少しでも0に近づける方針を打ち出しました。この20ミリシーベルトという数値は、緊急時から通常時に移行する間の「復旧時」の放射線量を1-20ミリシーベルトに押さえるべきというICRP勧告に基づくものですが、文部科学省が勧告の上限値をとった為に、住民の不安を誘発し、その後混乱を引き起こしました。現在は自治体などの努力もあり、数値はずいぶん下がって来ましたが、まだまだ高い場所もあり、住民の不安は払拭されていません。これらの数値は放射性セシウムの内部被ばくによる影響を想定したものですが、そもそも内部被ばくの影響にはわからないことが多く、余り気にする必要はないという専門家と、危険と見るべきという意見があり、その対立が市民をますます不安に陥れている側面があります。
・ このような状況で、少なくとも私達は、何をどのように進める必要があるのでしょうか?私は3つのことを提案したいと思います。一つ目は、一刻も早く「正確な放射能汚染地図」をつくり、市民の誰もが簡単にアクセスできるシステムを完成することです。現在、放射能の汚染データ収集は、国、自治体、大学、市民団体などが、それぞれバラバラに行っています。中には測定方法がきちんとしていないものもあり、国や自治体は、測定方法を統一させて、一律のデータを集め、出来るだけ広範囲で正確な汚染地図作りを急ぐ必要があります。放射能は、水の流れに乗って移動したり、ホットスポットをつくったり、森や海の中では上下方向に移動することもある為、汚染地図は立体的で、リアルタイムに近いものである必要があります。このようなデータベースが出来て初めて、住民は自分の住む環境の汚染状況を把握し、行動の方針を立てることが出来るのです。
・ やるべきことの二つ目は、農作物や食品の徹底的な管理です。農林水産省の指導にも関わらず、汚染されたワラを与えられた肉牛の汚染が問題になりましたが、それは行政側の指導不足が原因です。人体に取り込まれる恐れのある食品をきちんと管理し、国や自治体の流通に乗った食品は安全なのだという安心感を作り上げる努力は、全ての基本です。国や自治体は、食品の安全を確保するシステムを、全力で、一刻も早く確立する必要があります。
・ 3つ目は、汚染された可能性のある地区に住む住民の健康調査を継続して行い、国や自治体の責任で診療を保障するシステムを作ることです。放射能の健康への影響は、長期的検査なしではわかりません。たとえ低線量被ばくと人体への影響のメカニズムが不明でも、健康検査は出来るはずで、それを継続しつつ、住民の健康を守る体制を作り上げることが重要です。国や自治体は住民と一丸になって、放射能に立ち向かう姿勢を見せる必要があります。

● 原発事故から学んだ教訓
・今回の事故の混乱は、もとをたどれば、国や関係者が「原発事故は起きない」事を前提にしていたことに行き着きます。国や電力会社は「原発は絶対安全」といい、住民もそれを受け入れ、ともに一種の共同幻想を作り上げてきたのです。「原発事故は起きない」前提ですから、今回のように実際に起きた時、電力会社も政府もうろたえ、適切な対処をとることが出来なかったのです。また、市民の側も、学校で原発や放射能のことをきちんと学んでいないので、風評被害的な行動に結びつきやすかった部分もあります。今後は、学校教育の場で、放射線のようにわかりにくいモノを、科学的視点できちんと理解し、そのリスクに対して、適切に向き合う能力を身につける「リスク教育」を充実させていく必要があります。市民も行政も「思考停止」をやめ、科学的知識をもとに「正しく怖がり」自ら選択し行動できる能力を、身につけていくべきではないでしょうか。

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