硫黄島に原初の皆既日食を見た(4)
硫黄島の皆既日食体験から1ヶ月。まるで、あのときの出来事が遠い夢のようです。皆既日食の中にいたときの「童話の中に迷い込んだような不思議な体験」はどこからくるのか、忘れないうちに、科学的な説明もしておきましょう。
皆既日食の強烈なインパクトは、結論から言うと、私達の日常の座標軸と全く違うことが起きるからです。
そもそもあの巨大な太陽があっという間に「黒い太陽」になること自体がすごいことです。しかも、そのプロセスも不思議だらけ。皆既日食は要するに太陽が月の影に入る現象ですが、周囲が開けた場所にいると、巨大な月影が時速1500キロの猛スピードで近づき、その後すっぽりと影に包まれていくのがわかります。私達も、生中継で、西に広がった海の方向から「月の影」が急速に近づいてくるのを撮影しようとしましたが、残念ながら雲が多く、はっきりとは分かりませんでした。しかしそれだけに、いつの間にか皆既状態になって、周囲360度の水平線が、オレンジ色や青色の光の帯で覆われたときは幻想的そのものでした。普通夕焼け等は、太陽の回りだけが明るいものですが、真上に黒い太陽が浮かび、周囲360度の水平線が明るく、近づく程暗くなっている様子は、全くの未体験ゾーンです。また皆既日食になる瞬間「シャドウバンド」という現象があり、太陽光線が大気の揺らぎでちりちりした状況になり、光るしわのようなものが至る所に現れることもあります。今回の硫黄島では、これまた残念ながらはっきりとは分かりませんでしたが、皆既日食になるプロセスで感じた、不思議な「異次元的感覚」は、この現象のせいだったのかもしれません。さらに、頭上に黒い太陽が浮かび、妖艶な真珠色のコロナが見え、その周囲に、夏なのに冬の星座があらわれ、急に気温が下がり、強い風が吹きはじめる・・。
要するに何から何まで、異次元体験で、そこに立つ人間の「座標軸」は擾乱され、全てが終わったとき、まるで「夢から覚めた」ような感じになるということなのです。
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コメント
雲の陰と追いかけっこするだけで楽しいのですが、時速1500キロの月の蔭が追いかけて来るって、なんだかぞくぞく怖いような不思議な感覚。室山さんの文章から、想像が膨らみました。
投稿: こんにちは | 2009年8月17日 (月) 16時32分
「時速1500キロの月陰」「黒い太陽」…
ふ~ん!ふ~ん!ふ~ん!!すごいなあ…。
コロナを「妖艶」って表現する室山さん…
素敵すぎる。
投稿: こんばんは | 2009年8月17日 (月) 21時50分